イギリスのスコットランド地方にはMid marketという中間層を支援する、政府や自治体の所有する物件の格安貸出制度があります。

これがとってもお得なので、スコットランドで家を借りるならこの制度を知っておいた方が良いです。

 

Mid marketとはなにか

スコットランドでの物件探しは大変です。基本的に借りたい人に対して、住宅が常に不足しているため、家が見つからなくて焦った人を狙った詐欺なども多いです。そのため「家が素敵だったり、ロケーションがとても良いのに、家賃が相場より安い場合は詐欺を警戒しろ」と言われます。

しかし実際にはMid marketという家賃が相場より安い物件が存在しています。

イギリスは社会保障の寛容な国と言われていて、いわゆる生活保護にあたるSocial benefitが充実しています。”No DSS”や”No Housing Benefit Applicants”と物件広告に書いてあることがありますが、これは生活保護で家賃を賄っている人はお断りという意味です。こういうことを書くのは本来違法なのですが、実は生活保護を受けている人は例え問題があっても簡単に追い出すことができないため残念ながら敬遠する大家さんが多いです。

様々な理由があって生活保護を受けている人は沢山いて、そういう人達は家賃が格安であったり無料である政府持ちの家に住んでいることがあります。

そのような生活保護を受けるまでいかなくても、昨今ではイギリスの家賃の上昇により中間層でも貯金ができない、家が買えないという世帯が増えています。

イギリスは家の価値は長く住むほど上がっていくので、家を買うことは資産を増やすうえで重要なのですが、最近は家の値段が上がりすぎていて、そもそも物件を買うことができない、そのため割高な家賃を払い続け余計にお金が貯まらない、という人が多くなっています。

そこでスコットランド政府が始めた中間層の住宅支援がMid market(ミッドマーケット)です。これはイギリス政府や自治体が物件を買い、家賃収入を目的とせず格安で貸し出す支援です。

しかもこのMid marketはスコットランド人だけでなく、外国人である日本人でも問題な借りることができます。スコットランド政府は寛容ですね。

 

Mid marketの家賃割引例

では実際にMid marketの物件がどれくらい安いかと言うと、私が今Rightmove(不動産サイト)を利用しエディンバラの物件を検索したところだと、例えばシティーセンターのEH3のかなりいいロケーションの、モダンな2ベッドルームで£650というMid market物件が見つかりました。

普通このエリアで2ベッドルームなら普通£800はするはずなので2割ほど安いです。

だいたいこんな感じでMid marketはどのエリアでも相場の2割引きくらいで借りられるので、もちろん超お得です。

 

Mid marketの収入制限

さて、家賃がとても安くてお得なMid marketですが、これは中間層を支援するためのものなので、借りるにはまず収入制限があります

これは個人ではなく世帯全体での収入なので、その家の広さによって調整されています。

上記のRightmove(不動産サイト)で見つけた広告では詳細欄に

you need to be earning a minimum of £18,000 per year and no more than £39,000 per year as a household.

(あなたの収入が最低£18,000で、£39,000を超えていない必要があります)

とあります。下限の£18,000は2019年8月現在日本円で約230万円、上限の£39,000は約500万円です。

2ベッドルームなので二人の社会人が生活するとすると、上限の£39,000を2で割った£19,500(250万円)、このお給料はだいたい働き始めたばかりで、ややお給料の低めの仕事をしてる人の典型的な収入って感じです。

しかしMid marketの収入制限はhousehold(世帯)の収入制限で、一人当たりではないので、一人暮らしであればエディンバラのほとんどの社会人は£18,000~39,000の幅に当てはまりそうです。また社会人+学生カップルでもこれでいけそうです。

収入には下限もあるため、全員が学生で無収入の場合は残念ながらMid marketを借りる対象には当てはまりません。

またこの収入制限は借りる初期段階での制限なので、契約の段階でこの収入制限幅に当てはまっていれば、住んでいるうちに収入が上がったりしても大丈夫だそうです。

この収入を証明するために、過去三か月間の給料明細と銀行口座の履歴の提出を求められます。

また収入制限の規定は分かりませんが、一人で契約した場合に、後から例えばパートナーができて一緒に住みたくなった場合なども契約を追加するなど対応してくれるそうです。

Mid marketを借りる条件はこの収入制限だけで、あとは外国人だろうが、何歳だろうが、どんな職業だろうが何人家族だろうが、カップルだろうが、友達同士だろうが問題なく借りることができます。

 

Mid marketの見つけ方

もしこの収入制限に当てはまるならこれはかなりお得な物件であることは間違いありません。ではどうやってMid market物件を見つければよいのか。

実はMid marketは普通の物件情報サイトに広告が載りますが、それがMid marketであることを明記しているとは限りません。物件の管理もだいたい自治体が普通に不動産屋に委託しているため、普通の物件と区別するのが難しいことがあります。

広告内の初めなどに”This is mid market property”(この物件はMid marketです)とか”Opportunity to rent mid market property”(Mid marketを借りるチャンスです)とかしっかり書いてある場合もありますが、多くはありません。

でももし、Mid marketであることが物件情報にはっきりと書いてなくても、物件情報の詳細に書いてある内容によってMid marketであることを判断することができます。そのポイントをいくつかご紹介します。

収入制限が書いてある

広告に「収入がいくらからいくらまでの人」と収入制限が書いてればまずMid marketで間違いないでしょう。普通の大家さんが上限まで設けて収入を制限する必要はないからです。

これがおそらく一番分かりやすいMid marketの判別の仕方です。収入幅もだいたい家のサイズによって固定されているので、いくつか見ていればだんだん判別ができるようになると思います。

 

家賃が相場より20%くらい安い

イギリスでは物件が不足しているため、皆血眼になって賃貸を探すため、物件詐欺がというのが結構あります。家賃が相場より明らかにやすいものは怪しいからやめろ、とよく言われます。

しかし、Mid marketはそのアドバイスに反して実際に相場より安い家賃で借りることができるので、間違わないようにする必要がありますが、安いから必ず詐欺と言うわけではありません。

Mid marketはプライベートの大家さんではなく普通は不動産屋さん経由で借りることになるなので、そこも詐欺と区別するポイントかもしれません。詐欺の場合はたいてい個人の番号などが連絡先になっていて、不動産屋を通さないようになっています。

Mid marketの家賃は目安では20%程度相場より低いです。エディンバラであれば例えば1ベッドルームなら£550-650くらい、2ベッドルームなら£650-750くらいでしょうか。

 

家具が付いていない

これはMid marketを借りるデメリットにもなりますが、Mid marketの物件には通常家具がついてきません。これはセキュリティのためだそうです。

普通はイギリスで家具がついていない、と言っても、冷蔵庫や洗濯機などの基本家電だけはついている場合が多いのですが、このMid marketでは例外的に本当に何もありません。ガス台だけです。

しかしイギリスは中古の家具のマーケットが大きく、素敵な家具を中古で買うことは難しくないので初期費用は少しかかりますが、数か月で元を取ることができます

新築でない場合、見学に行くときには前の住人が住んでいる状態で行くことが多いので、その時に家具がまだ置いてある状態で見学することになります。でも入居する時にはそれが全て引き払われるので、ここにある家具はどれもなくなりますよ、と数回忠告されました。

 

新築で購入優先権がある

Mid marketは自治体がよく新築の建物の買い上げて行っています。そのため、新築で収入制限がある物件であればまずMid marketで間違いありません。

またそのような物件の場合、時々、5年後にその物件を購入したい場合購入の優先権が与えられます、と書かれていることがあります。

これもMid marketの特徴です。普通はこのような購入優先権というのは最初からは与えられません。

購入優先権が与えられるというはイギリスの不動産事情ではとても大事なところです。なぜならイギリスでは家を買う時、基本的にオークション方式だからです。購入を希望する人が売主の最低希望金額以上の買い取り金額を自由に設定します。その中で一番高い購入金額を設定した人が実際に買えるというわけです。

イギリスは賃貸だけではなく全体的に物件が不足しているため、購入になってもなかなか買いたい家が買えるとは限りません。そのため家を借りるにも買うにも何か月も挑戦しなくてはいけない、ということがあり、それがとても大きなストレスになります。

Mid market物件では住んだ後に気に入ればその物件を購入することができることがあるため、その場合他の購入希望者と金額のつり上げが起こらずに済みます。

そもそもMid marketは物件購入をする費用を貯められない中間層の支援として行われているものなので、これはその方針に合っています。

また普通家を買う場合、その家にしばらく住んでみてから、ということはできないので、このように初めから購入するかどうか決められるという制度はかなり買う側としてはありがたい制度だと思います。

やはり住んでみないとそのエリアのことだとか、細かい住み心地というのは分からないので、値段を置いても、この購入優先権だけでもMid marketはありがたないなぁと思います。しかし、購入権はどの物件でもついてくるわけではないようです。

 

求人サイトでフィルターする

数は少ないですが、求人サイトでMid marketだけをフィルターできるものもあります。また自治体によってはMid marketの物件をまとめたサイトを持っている場合もあります。

 

Mid marketを借りる注意点

家具がない

これはMid marketの見つけ方の項でも書きましたが、Mid marketは家具がついてきません。そのため自分で全て買う必要があります。家具がついていないということを英語ではUnfurnishedといいます。

家賃が相場よりもだいぶ安いので、家具を買う費用を考えても数か月以上住むならばトータルでは安くなると思いますが、でも家具を選んで、買って、設置して…という作業自体も面倒です。なので入居してすぐに生活を始められず、負担になってしまいます。

また短期間だけ借りたいという場合には家具がないため、家具の購入費用を考えると効率が悪くなります。

逆に家具がついていないことは自分で好みの家具を選びたい人にはメリットになるかもしれません。日本では家具付きの物件は少ないので、日本人なら新品の家具を自分で選びたいと言う人も多いかもしれませんね。

実際家を貸すためだけに保持している大家さんは、最低限の家具があればいいと何でも一番安くて質の低い家具をそろえている場合もあります。

また大家さんのセンスがものすごく悪くて全然インテリアが気に入らないということも多いです。その点自分で選べるので、そのようなトラブルは少ないです。

 

早い者勝ちである

これも人によってはデメリットにはならないこともありますが、Mid marketは自治体が行っている制度なので誰に貸すかを重視しておらず、入居権は基本的に早い者勝ちです。この早いもの勝ちのことを英語ではFirst come , First served (最初に来たものに最初に与えらえる)と言います。

Mid market物件は当然人気も高いため、いいと思ったらすぐに申込書を書くべきです。申込書は現地で渡されるアナログ用紙の場合もありますが、不動産屋のウェブサイトにフォームが公開されていて、先にオンラインで記入できる場合もあるので、行く前から書いておいて、見学後に送信するだけの状態にするのも良いでしょう。

既に物件サイトの写真で見てよさそうだなと思っているなら、オンラインフォームがあるかどうか行く前に確認しておくべきです。

First come, Firsts servedは急いで応募しなければならないというストレスはありますが、逆に言えば借りるチャンスは平等にあるということです

イギリスで物件を借りる時によくあるのが、借りたい人の名前と収入だけを大家さんにリストで渡して、大家さんが誰に貸すか選ぶというものです。この場合名前がイギリスの名前でない外国人はやっぱり不利です。

日本人は綺麗好きという評判もあるので、日本人と分かれば家を貸したいと言ってくれる人も多いと思うのですが、でも名前だけで日本人であると分かるほど日本についてよく知っている人はイギリスには多くありません。よく分からない名前の外国人より、なんとなくイギリス人に貸したいと思う人が多そうなのは想像できます。

また働き始めたばかりでまだ収入があまりない、という時も家探しが大変です。そんな人を支援するためのMid marketなので、早い者勝ちはより多くの人を支援する、よい仕組みかもしれません。

なので逆に名前や収入で絞られないFirst come, first servedの物件もマーケットには必要かもしれません。

 

以上Mid marketについてでした。

だいたい家賃は相場のより低い値段で借りることができるので、もちろんMid marketはものすごく人気があります。

しかし実はイギリス人でもMid marketについてよく知らない人もいて、家賃が安すぎて怪しい物件だ、とスルーしている人もいるかもしれません。

私も実は友人が前に少しそんなことを言っていたなぁと覚えているのですが、あんまりよく聞いていなくて、最近になってきちんと知ったので、前から知って入れば、と少し思います。

なのでこの記事をきっかけに今後引っ越すのであれば、見つけるのは大変、借りるのも競争率が高いですが、もし借りられたらラッキーなので、Mid market物件にも目を光らせるといいのではないでしょうか。